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東京高等裁判所 昭和41年(ツ)166号 判決 1967年2月14日

理由

上告理由について

原判決は次の事実を確定している。すなわち、訴外渡辺重雄は本件土地の上に本件建物を所有していたところ、昭和二九年一一月三〇日本件土地の所有権を取得し、同年一二月二八日その旨の登記手続を了した。訴外浅利正夫は昭和三〇年一月一三日本件土地、建物につき条件付代物弁済契約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記を経たが、条件成就の結果、代物弁済により本件土地の所有権を取得し、昭和三二年一月一二日右仮登記に基づく所有権移転の本登記を経由した。上告人は昭和三五年一〇月二七日浅利正夫から本件土地を買い受け、同月三一日本件土地につき所有権移転登記手続を了した。一方、渡辺重雄は本件建物につき、(一)、昭和二六年一一月一三日訴外山梨県信用保証協会に対し債権額三〇万円の抵当権を設定し、同月一五日その旨の登記手続を経由し、次いで、(二)、昭和二九年一月一三日同協会に対し債権額一〇万円の抵当権を設定し、同月一四日その旨の登記手続を了したが、その後、(三)、昭和三〇年四月一八日に至り同協会に対し、本件土地、建物の双方につき債権額三〇万円の抵当権を設定し、その設定登記は同年五月一五日経由された。その後、山梨県信用保証協会によつて、本件建物につき上記(三)の抵当権が実行された結果、昭和三五年二月二九日被上告人内松登記子が本件建物を競落し、同年七月二三日その旨の所有権取得登記手続を経た。しかして、原判決は、以上の事実関係に基づいて、本件建物の競売の結果、本件土地について被上告人内松登記子のため法定地上権が発生し、しかも右法定地上権は上記(三)の抵当権設定以前に本件土地について所有権移転請求権保全の仮登記を経由し、その後、右仮登記に基づく本登記を受けた浅利正夫から本件土地を買い受けた上告人に対して対抗し得るものと認定判断し、被上告人らの右法定地上権に基づく抗弁を採用して、上告人の本訴請求をすべて棄却していることは、原判決の判示により明らかである。

右原判決の確定した事実に基づいて考えるに、上記(三)の抵当権が設定された当時、本件建物はその敷地である本件土地とともに渡辺重雄の所有に属していたのであるから、右抵当権の実行によつて本件建物を競落した被上告人内松登記子のため、本件土地について法定地上権が成立するものと解するを相当とする。しかしながら、浅利正夫は、右抵当権設定登記以前に、すでに本件土地について条件付代物弁済契約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記を経ていたのであるから、その本登記がなされることにより、右仮登記後本登記までの間になされた右本登記に牴触する処分によつて権利を取得した者は、右権利をもつて浅利正夫に対抗し得ない筋合であるといわなければならない。ところで、渡辺重雄が本件建物に上記(三)の抵当権を設定し、右抵当権の実行により本件建物の競落人である被上告人内松登記子のために、本件土地について法定地上権が成立するに至ることは、上記浅利正夫の経由した所有権移転の本登記に牴触する結果を生ぜしめるものであることが明らかである。もとより、右法定地上権は、渡辺重雄の本件土地自体についての処分によつて発生したものではなく、抵当権の実行によつて本件建物とその敷地である本件土地とが別異の所有者に帰属するに至つたという事実に基づいて、法律上当然に生じたものではあるが、被上告人内松登記子のため本件土地について法定地上権が生ずるに至つたのは、渡辺重雄が本件建物について上記(三)の抵当権を設定したことに因るものである以上、本件土地について渡辺重雄の処分によつて右本登記に牴触する結果が生ぜしめられたのと、なんら区別すべき理由はないものといわなければならない。したがつて、被上告人内松登記子は、右法定地上権をもつて浅利正夫に対抗し得ないものと解すべきであるからその後浅利正夫から本件土地を買い受け、その所有権移転登記を経た上告人に対しても、右法定地上権をもつて対抗し得ないものというべきである。そうだとすれば、原判決が、被上告人内松登記子の右法定地上権は上告人に対抗し得るものであるとの判断の下に、上告人の被上告人らに対する本訴請求を認容した第一審判決を取り消し、上告人の請求を棄却すべきものとなしたのは、法律の解釈を誤つた違法があるものというべく、右違法は原判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決は破毀を免れない。論旨は結局において理由があることに帰する。しかして、本件は、なおその余の争点について審理をなす必要があるから、これを原裁判所に差し戻すこととする。

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